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手段としてのイノベーション:シンプル・イノベーション

手段としてのイノベーション:シンプル・イノベーション

まえがき


 2005年度[2005.4-2006.3]:8,759件だった倒産件数が、2006年度:9,572件、2007年度:11,333件と、再び増加傾向にある。
[帝国データバンク 倒産集計より]
 経済実質成長率は、2004年度:2.0%、2005年度:2.4%、2006年度:2.5%と、堅実に推移してきたが、2007年度は1.6%と、成長にやや陰りが見られる。また、日本銀行によって発表される企業短期経済観測調査(いわゆる日銀短観)の景況指数推移を見れば、景気後退はさらに警戒されるべきであることが分かる。
[NIKKEI NET(日経ネット):景気ウオッチ−GDPや月例経済報告など内外の主要経済指標 参照]
 これらの事実は何を意味するだろうか。
 早稲田大学の教授である松田修一は、「1980年代、米国に進出したモノづくり企業の年間成長率は10%を超えていたが、現実はキャッチアップ型の低収益モデルで、規模の量的拡大を追及していたにすぎなかった。1991年頃から2002年頃のいわゆる[失われた10年]が過ぎ、2003年3月期以降の日本経済はV字型回復をしつつあると言われているが、低収益モデルから脱しているとは言えない」という主旨を、その著書『MOTアドバンスト技術ベンチャー』において述べている。さらに松田は、技術革新によるイノベーションが経済成長の最も重要な要因であり、その基盤づくりが研究開発投資であることを主張している。  キャッチアップ型の低収益モデルと関連の深いキーワードとは、[成熟市場]である。対するイノベーションに関連の深いキーワードとは[新しい市場]であり、[新しい価値]である。加えて、[高収益モデル]も、関連の深いキーワードであると言える。
 我々の基本的な見解は、松田と異なるものではない。しかし、我々は「技術革新によるイノベーション」だけでなく「技術革新によらないイノベーション」も等しく重要であると考えている。
 では、イノベーションとは何か?
 糊のついたしおり―ポストイットをはじめとして、常にイノベーティブな価値を提供し続ける、世界的な化学・電気素材分野のリーディングカンパニーである3M社の技術者アンドリュー・アウダーカークは以下のように述べている。

 イノベーションとはソリューションとニーズを結びつけることです。ソリューションそのものはイノベーションではありません。インベンション(発明)であってイノベーションではないのです。
日本に根付くグローバル企業研究会
ケーススタディ 住友スリーエム』 日経BP社 2005.

 後ほど詳述するが、我々はイノベーションを「社会的共通性を持つ価値観によって価値を認識された新しい結合」と再定義した。
 この再定義は、3M社の技術者であるアンドリュー・アウダーカーク、ひいては3M社の「イノベーション」に対する認識と、親和性が存在する。つまり、「社会的共通性を持つ価値観の集合」は、「ニーズ」とほぼ同様の意味を持つということである。加えて、「価値観の集合」に対するフォーカスこそがイノベーションの前提であるゆえに重要である、という考えを持っている。
 ちなみに、製造業において「イノベーション」は、2つの異なる概念から構成されている。プロセス・イノベーションとプロダクト・イノベーションである。

 プロセス・イノベーションは、モノづくりのためのイノベーションで、生産システムに関するイノベーションである。同一の製品をいかに、安く、高品質で、短い時間で生産するかに関するイノベーションである。その代表が日本のトヨタ生産システムである。
 一方、プロダクト・イノベーションとは、新製品開発のためのイノベーションである。売れるような新製品をいかに開発するか、消費者が2倍・3倍の価格を出しても買いたくなるような商品開発・製品開発をすることがプロダクト・イノベーションである。
吉川智教
「プロダクション&オペレーションマネジメント 〜イノベーションと生産管理システム〜」  『MOT入門』  (早稲田大学ビジネススクール著) 日本能率協会マネジメントセンター 2002.

 我々は、本書において製造業でいうところのプロセス・イノベーションについては詳細を扱わない方針である。プロセス・イノベーションそれ自体が「新しい市場」、「新しい価値」を意味するものとは見なさないからである。
 換言すると、同一の価値を再生産することを目的とする「生産工程」プロセスとは区別し、ア・プリオリとしての価値、すなわち生産工程に流すべき「新しい価値の開発」をテーマとしているのである。
 もし、生産工程の刷新、つまりプロセス・イノベーションによって著しく高品質、低価格、短納期なプロダクトが完成してもイノベーションとして扱わないのか?
 そういった価値は先ず、既存の製品とは異なる市場が想定され、新しいコンセプトによって設計された新しいプロダクトであるはずである。つまり、新しいコンセプトによって設計された新しいプロダクトは、生産工程の刷新を要求する場合もあるが、その逆― 生産工程の刷新が新しいプロダクトを要求するものではない、ということである。
 一部製造業においては、「後工程を顧客と思え」という言葉が存在する。日本の優秀な技術製品の製造を支えてきた概念であるが、製造業以外の一般的概念においては当然のことながら、顧客は後工程ではなく市場に存在する。
 プロセスの革新は、プロダクトの革新が伴うものである場合に限り、またその革新が、市場における「価値観の集合」によって価値が高いと認められた場合に限って、本書のテーマに沿うものとなるだろう。
 また、我々にとってイノベーションとは、前述した通り、「技術革新によらないイノベーション」も大きな意味を持ち、そのことは「技術革新によらない製造業におけるイノベーション」の存在をも意味するものでもある。
 しかし、本書においては、製造業におけるイノベーションのみを扱うものではないことを述べておく。
 我が国のGDPの約7割を占め、雇用の約3分の2を占めている第3次産業、いわゆるサービス業においてもイノベーションは大いに期待されるべきなのである。
 ところで、イノベーションとは簡単に成立するものではないが、必要以上に難しく捉える必要は全くないと我々は考えている。
 上記の如く、イノベーションに対して付与された様々な概念がイノベーションという概念を複雑にしている、と我々は考える。同時に、イノベーションという概念の複雑さが、イノベーションそれ自体を目的として見なす風潮を生んでいると考える。
 本書においては、イノベーションという概念をシンプル化すると同時に、イノベーション成立のプロセスをシンプルに説明したいと考えている。
 また、そのことによって、イノベーションの再現性を高めることを意図しており、いわば「手段としてのイノベーション」へのアプローチを提供することが本書の目的である。
 イノベーションはそれ自体を目的にすべきではなく、またイノベーションが偶然に成立することを期待するのでなく、イノベーションは手段として選択すべきなのである。
 つまり、イノベーションはマネジメントできる。
 「新しい市場」に対する「新しい価値」の供給、ひいてはイノベーションは、日本経済において待望されているものである。
 我々は、市場に価値を供給するすべての方々が、本書によって「手段としてのイノベーション」へのアプローチを得られることを願っている。

インターフェース総合研究所


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